門番では終わらない ~行政の奥に踏み込む議員として~
《はじめに》
この文章は、誰かを批判するためでも、世論に強く訴えるためでもなく、議員としての視点から行政と政治の関係を整理し、記録するために書きました。
本文では、中世ヨーロッパのお城と門番を例(たとえ)に、議員と行政の関係を描いています。現実を誇張するのではなく、仕組みをわかりやすく伝え、より良い関係を築く視点を提示することが目的です。
世の中の様々なことの評価や批判は、つねに目に見える部分に偏りがちです。しかし「真実」に思えても「事実」と少し違っている場合もありますから、いつも「向こう側」を見極める気付きや視点を大切に持ち続けたいと思います。
私は「表層の門番」にとどまらず、行政に関わって社会に前向きな変化をもたらす存在でありたいと思い、自らの備忘のためにこの文章を記しました。
このたとえ話をみなさんにシェアする際にも、本来の意図のまま受け取られ、行政と政治の関係を考えるきっかけになれば幸いに思います。
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門番では終わらない ~行政の奥に踏み込む議員として~
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選挙で議員が選ばれると、人々は「これで政治が変わる」と期待する。
しかし、実際に政策が決まり、予算が組まれる過程をみると、それらは議員ではなく、行政職員によって決定されているのが現実。行政による意思決定は、ほとんどが見えない場所で進められ、議員ですらその過程を完全に把握することは難しい。
議員は、議会での質疑を通じて行政を正す役割を有しているが、その関与の深さには限界がある。議会の場で語られることは、すでに行政の中で決まったことを追認する作業になっていることが多く、議員の役割が「門番」にとどまりがちなのは否めない。門の前に立ち、時折意見を述べるものの、「お城」の中で何が話し合われ、どう決定されたのかを知ることも難しい。そして、お城の中にいる行政職員は、議員を形式的な存在として扱い、時に軽んじる。しかし、それを嘆いているだけでは何も変わらない。
さらに、行政職員は門番をただ門に立たせているわけではない。彼らは都合よく門番を使う。準備されたシナリオを読ませ、市民に伝えさせる。市民は門番から語られる言葉を聞き、あたかも議員のみの力で美しい仕事を成し遂げたかのように錯覚もする。あるいは、お城の中の住人にとって都合の悪い話題が浮上すれば、門番にその説明をさせ、批判の矢面に立たせる。門番は、知っていてその役割を演じる者もいれば、何も知らぬまま利用される者もいる。いずれにせよ、門番は市民とお城の住人の間で、巧妙に「使われる」存在になってしまっているといえる。
しかし、行政職員一人ひとりが、ただお城の中で安穏とした立場に甘んじているわけではない。彼らもまた、公務員としての誇りを持ち、私と同じ社会のために働きたいという思いを抱いている。ただ、組織の中での制約や慣例が、時にその思いを押し殺してしまう。
でも、そんな彼らと真正面から向き合い、意見を交わし、共に考え抜いたときには、心が通じ合う瞬間がある。職員の方々が、自らの仕事の意味を再認識し、本来の使命に立ち返る場面を何度も目の当たりにしてきた。そこには、議員と職員という立場を超えた、仕事人同士の誇りや達成感が生まれる。そして私は、その瞬間こそが、行政を少しずつ変えていく力になると信じている。
もしかすると、お城の中の住人たちは、必ずしもそこに安住しているわけではないのかもしれない。むしろ、彼ら自身がお城の外に出て、より自由に、より本質的な仕事をしたいと願っているのではないか。だとすれば、議員の役割は、単に門番として立ち尽くすことではなく、彼らがお城の外に一歩踏み出せるように、手を携ることかもしれない。行政と対立するのではなく、行政の中にある「変わりたい」という力と共鳴し、後押しすることができれば、本当の意味で政治は動き出す。
私は、門番的な議員でいたくはない。議員が本当に役割を果たすためには、行政の奥深くに踏み込み、政策の立案や決定の場に実際に関与することが不可欠だと考えている。そして、それは理想論ではなく、私は実際にそのための努力を続け、一定の成果をあげてきた。行政職員がどのように議論を進め、何を重視し、どの論理で政策を決定しているのか。また行政職員の視点では見つけられない政策のヒントを提供し、全く新しい道も切り開く。その過程に積極的に関わることで、議員の存在は形式的なものではなくなる。
もちろん、行政の中に入り込むことは簡単ではない。時には壁に阻まれ、説明をかわされることもある。しかし、そこで引き下がるのではなく、食い下がり、論理を理解し、時には修正を求め、あるべき方向へと導いていくのが議員としての本来の役割だ。
そして、この仕事を続ける中で、私は多くの行政職員に支えられてきた。対立からは何も生まれない。ときに難しい議論を重ねながらも、互いの立場を尊重し、よりよい形を模索する。その積み重ねがあったからこそ、前に進むことができた政策もある。行政職員の皆さんの知恵や努力、そして粘り強い調整力なしには、政治は動かない。そこに携わるすべての人に、心から感謝している。
門番ではなく、行政と共に考え、決定に影響を与える存在として、私はこれからも政策の現場に入り込み、変革を後押しする議員であり続ける。
(文:こしいしかつ子)